著者
池 志保 池永 真義
雑誌
福岡県立大学心理臨床研究 : 福岡県立大学心理教育相談室紀要 (ISSN:18838375)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.75-85, 2017-03-31

本研究は,心理学と美術教育学の研究者共同で創造性研究に取り組むことを試みたものであり,大学生の創造性を発揮させる教育者の態度にはどのようなものが有効か,美術の対話型鑑賞を用いて,本人の資質と環境との相互作用を念頭に心理学的に探索し,検証していくことを目的としている。九州地方A大学大学生(男性2名,女性8名,平均年齢21.1歳,SD=0.74)を対象に,2015年12月中旬,大学の附属研究所にて対話型鑑賞を通した実験を行った。その際,創造性を測る目的で,対話型鑑賞前後にバウムテストを実施し,結果をCFBS(Creativity Focused Baum-test Scale;池・山本,2015)の指標を用いて事例ごとに分析を行った。結果,自由な発想で作品を語り合える教育者の態度や学生との相互作用によって,大学生の創造性が賦活する可能性が示唆された。また,創造性に抑制的に働く非創造的態度は減退する可能性が示唆され,資質に関わらず学生の創造性が発揮される可能性が考えられた。
著者
寺嶋 愛 吉岡 和子
雑誌
福岡県立大学心理臨床研究 : 福岡県立大学心理教育相談室紀要 (ISSN:18838375)
巻号頁・発行日
no.9, pp.35-48, 2017-03-31

本研究では,娘が母親の情緒的関わりによって母娘の絆を築くことで安心感を得ることができたかどうかによって,娘の本来感や「いい子」を振る舞うかどうかが変化するのではないかと仮定し,娘の「いい子」の関連モデルを検討することを目的とした。女子大学生とその母親に対する質問紙調査を実施した結果,『「母親の情緒的関わり」という「母親から認められる」経験が娘の「安心感」の獲得につながり,その「安心感」を基に「母娘の絆」を築いていき,「お母さんは自分の欲求を満たしてくれる,信頼できる存在なのだ」という母親に対する信頼感を得られる。それによって「本来感」が得られ「本当の自分」を表出することが可能となる。』という一連の過程が経験できれば,『娘は「我慢」して「いい子」を振る舞うことなく「自分らしく」いることができる』ということが示された。娘が「いい子」を振る舞うかどうかには「母親の情緒的関わりによる安心感の獲得」が非常に重要であり,娘が成長し,自立へと向かう過程においても継続して重要な意味を持ち続けると考えられる。
著者
麦島 剛
雑誌
福岡県立大学心理臨床研究 : 福岡県立大学心理教育相談室紀要 (ISSN:18838375)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.25-35, 2016-03-31

ミクロ経済学およびそれを含む標準的経済学では、個人および企業は常に合理的行動(最大利得のための振舞い)をとることが大前提となる。一方、行動経済学は、人間および動物の行動には最大利得に向かわないバイアスがあることと、生産消費行動の基盤になる価値が必ずしも金銭的・経済的価値だけで規定されるものではないことを示し、経済学的法則性には心理学的要因が強く関与することを示した。心理学的現象は神経メカニズムとの関係が示唆され、その解明が進展しており、経済学的行動もその神経基盤の解明が始まった。神経経済学は、神経科学と経済学および心理学とを結びつけた領域であり、不確実な状況での選択行動や意思決定等に関する神経機構を検討する分野である。神経経済学は、応用的分野の理論的基盤を築く可能性を持ち、また応用的分野に視座を与える可能性がある。例えば、発達障害に対する心理臨床的援助に対して、衝動的選択の頻度を減らしてセルフコントロール選択の頻度を増やすための応用行動分析に活用できるであろう。エネルギー政策・環境政策の策定に対しては、超長期利得とそれよりは短い中長期的利得との間で合理的に比較検討する視座を与えるであろう。また、企業等の組織経営や労働政策の策定に対しては、仕事の意味づけ等の価値と金銭的価値とを合理的に比較検討する視座を与えるであろう。
著者
権 静香 小嶋 秀幹
雑誌
福岡県立大学心理臨床研究 : 福岡県立大学心理教育相談室紀要 (ISSN:18838375)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.31-42, 2015-03-31

在日コリアン青年11人に、本名と通名の使い方についてインタビュー調査を行い、在日コリアン青年の名のり行動を形成するプロセスと、名のり行動と心理的葛藤との関連を明らかにした。名のり行動の形成には、<経験>、<イメージ>、<環境・制度の影響>、<重要他者の意識>、<意識>、<名のりに伴う感情>が関連していた。また、名のり行動において葛藤を示す人と、葛藤を示さずに現在の名のり行動を形成している人がいることが明らかとなった。本名を名のることでポジティブな経験をし、それによって本名に対するポジティブな感情を持ちながらも、本名を名乗ることによるネガティブな経験やネガティブな感情が同時に存在する場合、また、重要他者の意識が通名使用を促すものであり、かつ自分自身の経験や感情が本名に対してポジティブなものである場合、葛藤が生じるというプロセスが見出された。